この状況は一体どうしたことだろう。私は今、絶対絶命のピンチに見舞われていた。エースのいうところの旅という迷子につき合わされていたのだが、なぜか物騒のものを持つ男たちに囲まれていた。
「いや〜、このごろ変な奴に絡まれることが多くてさ。この前なんて歩いていたらトラップがあって、それを避けたら今度は空から槍が降ってくる。そんでもって、それもかわしたら物騒な人たちから狙撃されてしまったんだよね。俺って運がないよね」
よくそれだけのことをされて生きているよとアリスは心の中で素早くつっこみを入れた。いくら城の軍事責任者といっても限度はある。それだけの凶事に見舞われても運が悪いで済ませることができるのはエースだけだろう。
「じゃあ、運の悪いというお兄さん。この状況は、あなたのせいかしら」
物騒なものを今にも使いそうな人たちとエースを交互に見る。
「う〜ん。これって俺のせいなのかな。俺って愚鈍で愚かな騎士なの何でこうなるのだろう」
うーんと考え込むエースにアリスはため息をついた。
「まあ、俺って考えなしだからどこかで恨み買うこともあるし、もっとうまく生きなきゃだめかな」
そういうといきなりエースは発砲した。いつも思うことなのだが、ここの住人はどうやって装備を出しているのだろう。毎度、毎度、手品師みたいに銃を出し発砲していく。
エースは、銃を持っているものを一掃した後、今度は剣に持ち替えて残りのものを屠っていく。映画なら、こんな惨劇を目の前にして悲鳴なり卒倒なりしそうものだが、悲しいかなアリスはここに来て以来いくつもこのような場面に遭遇している。故に悲鳴も卒倒もせず、冷ややかにこの状況を受け入れてしまっていた。
最後の一人を切り伏せたエースはアリスに近寄ってきた。
「ごめんね。怖い思いさせてしまってさ。本当に困るよ。君にもしものことがあったら俺は……」
悲しげに目を伏せるエースは爽やかだ。悪いがその辺の映画スターよりかっこよく感じる。
「エース。悪いけど、それ以上、近寄らないでくれる」
そう、エースはかっこいい。まるで騎士のごとく(騎士であるが)、お姫様(まきこまれた)を助けた正義の味方っぽい。だが、エースは全身血まみれだった。服は目も痛くなるような赤であるから、少々血がついても分からないが、少々ではなく思いっきり血が飛んでいる。手はいうに及ばず血まみれで、そして血に濡れた剣をもっているのだからまるでこれからお姫さまを殺そうとする殺人鬼のようだ。それでいて、この上もなく爽やかであるから余計に恐怖が倍増する。
「え〜。折角、君を守ったのにお礼の一つのないなんて」
「いつ、私が守っていったかしら。私は巻き込まれたのよ。だから、私を守るのは当たり前。それにあなたは騎士なんでしょ。弱者を守るのが本分なのだから」
むくれるエースをぴしゃりと叱る。
「でも、ひどいことをするよね。折角、君とのデートだったのに邪魔するなんてさ。さっきの人たちに誰に頼まれたのか聞いたのだけど、なんと雇い主はペーターさんなんていうのだよ。ほんと、こんなことでは俺たちに友情が崩れることなんてないのにさ、学習能力ないのかな」
(ペーターめ、あとでお仕置きしてやる)
アリスは、城に帰ったら、久しぶりに動物虐待をすることを心に決めた。
「アリス。そんなことよりデートの続きをしよう」
「エース。あんたその格好で町に行く気なの」
何度もいうようだがエースは血まみれだ。その爽やかさでも明らかに殺人鬼に見える。
「確かに、ちょっと血が着いちゃったけど、俺、気にしないし」
「私が気にするのよ」
このエースと町を出歩いたら、間違いなく殺人鬼の仲間入りができそうである。
「ねえ、俺は君といるだけで息が詰まって周りが見えなくなるのに、君は本当に余裕があるよね」
エースは、アリスの髪に触れた。いつの間にか剣はしまわれていて、何も持たぬ手はアリスを抱き寄せ、頬に触れる。
(本当に、シュチュエーションだけは完璧なのに)
悪党を倒した騎士に口説かれる。夢のような状況だが、すぐそばには倒された悪党が転がっているし、騎士の手はべっとり血で濡れている。そんな手で触れられたからおそらくアリスの顔にも血がついただろう。そして何よりエースの服からする血の臭いが鼻につく。
「私も、あなたに触れられるとドキドキして呼吸困難になるわ」
命の危険を感じてだがと、アリスは心の中で付け加えた。アリスの言葉に気を良くしたエースは笑った。そのムカつくくらい爽やかに。
もはや、逃げることも叶わないのだからとアリスは目を閉じた。
まるで、悪の騎士に脅される気分を味わいながら、近づいてくるエースの唇を受け入れた。
あとがき
エースははっきりいってだまされました。まさかこんなキャラとは思わず、おまけのＣＤではありませんが、爽やかなドジッこと思っていました。
アリスはキャラの性格がみなさま好きで、爽やかで黒いエースは本当に素敵です。