別れの言葉

 
 さようなら。

 ごきげんよう。

 元気でいてね。
  
 忘れないから。

 また、会えるよ。

 私は、どんな言葉をあなたにかけるでしょうか。





 別れの言葉はありきたり、どこかの小説でもそれはかわらない。  
 「別れの言葉を探している時点で、私は最低ね」
 アリスは、誰もいない部屋で呟 いた。この狭くて散らかった部屋にどのくらい滞在しかのか分からない。時間があいまいな世界で時間を数えるとは、愚かなことだ。しかし、その愚かなことを 考えるくらいアリスがこの世界にいれる時間は尽きていた。明日、終わりがくるかもしれない。その事実をアリスのもつ薬瓶は否応もなく示してくれる。だが一体、誰が、アリスに時間の終わりを告げる。そんな仕業を企むものなどいるはずもない。
 「離れたくない。帰りたくないのに」 
 だが、帰らなければならない。言葉にならない焦燥感がアリスを支配する。言葉と反対にどんどん気持ちは違うほうに転がっていく。
 「早く帰ってきて」
 誰もいない部屋にまた言葉を零す。この部屋の主、ユリウスは外に仕事に行っていて不在だ。一人は、怖い。この世界ではあまりないのに、なぜかこの部屋には時計がある。
 チクタク、チクタク。時計たちはかってに進んでいく。自ら進んでいるのに、誰かに進まされているみたいだ。
 時間を進めないで。私の時間をこれ以上は。

 「ただいま」
 帰宅の言葉を告げるとお帰りと返事が返ってくる。だが、今日はその言葉は返ってこなかった。時間帯は夜のため電気をつけなければ暗い。 アリスはいつもどおり部屋にいた。その表情が暗いのを除けば、普段と変わらない。 「ユリウス」
 アリスはユリウスの名前を呼んだ。ユリウスはそのままアリスを抱きしめた。なにかをアリスは伝えようとした。しかし、言葉にはならない。その言葉、もしかしたら別れの言葉になるか、時間を進める言葉になるかわからない。ただ、今はこの腕のなかでまどろんでいたい。義務も焦燥も何もかも忘れてくれる優しい手。この手がある限り時間は進まないようなきがする。「お帰り、ユリウス」
今は、必要な言葉これだけ。私を駆り立てるものを消してくれるこの手だけを感じて。


  出会いは神の御業、別れは人の仕業なり。



  では、告げられる別れの言葉は人の仕業ですか。



  でも、本当にひどいことは、別れの言葉ではありません。別れの言葉なのにまた会えると希望を抱かさせるあなたなのですから。


あとがき

 短文&散文で書いてみました。極力、情景描写を抑えて、キャラに語らせる。意外にやってみると楽しいです。また、こういう形式のお話を書いてみようかな。今度は、もっとパロ的な明るいお話を!