Wer sich mutwilling in Gefahr begibt, kommt darin um.(危険へと赴くものはそこで死ぬ)


  ぎゃあと目の前の男が叫ぶ。
 断末魔とはかくも醜いものか。
 まあ、山賊風情の断末魔などに風情を求めても詮無いことであるがとユークレースは漠然と思った。
 ユークレースは単身、山賊のアジトに潜入した。
 小規模とはいえ、40人くらいはいたと思う。
 だが、その40人の山賊たちは1時間ほどでその生命をすべて消されてしまった。
 最後の首領らしき男の胸から剣を抜く。
 屍となった男は重力に誘われるようにどさりと崩れおちた。
 満足感が胸に広がる。
 だが、ユークレースはその音を聞くや否や大きく咳き込んだ。
 口に当てた手はみるみる間に血に染まり、自らも立っていられなくなる。
 このところ、発作の回数と間隔は増えていった。
 もはや自分がながくないことは分かる。
 だが、その病状の悪化を感じながらユークレースは自らの生命がまだ終わるような気はしなかった。
 確かにそのときは確実に近づいている。
 しかし、戦っている間ユークレースは一度も発作を起こしたことはない。
 それは、未だ彼女との約束が果たされていないからだと思っている。
 ユークレースは王の試練の最終日、フィーリアから呼び出された。
 ユークレースはそこで今までのご温情と自分の過去を偽りなく話した。
 フィーリアは黙って聞いてくれた。
 それは主としてか、それとも一人の女性としてか分からなかったが、ただ黙って耳を傾けてくれた。 
 ユークレースは自らの運命に絶望していた。
 しかし、絶望しながら最後に救いを求めていた。
 病が治るという類のものではない。
 フィーリアが ユークレースの最後を決めることで、自らの生の意味を与えてもらいたかった。
「ユークレース、その命は果てるまで、武芸の道を極めなさい」
 フィーリアはまっすぐユークレースの目を見つめ命じた。
 それが、最後の彼女と交わした言葉だった。
「フィーリア様、お約束までもう少し。終わりがくるまで、あなたのために生きていきます」
 ユークレースは立ち上がると、次の獲物を求めまた歩きだした。