正統アンチテーゼ

 
 歓声が聞こえる。今日は、一年越しの即位式だった。今日、即位したのはターブルロンドの唯一の王位継承者フィーリアという16歳の少女だった。華奢な体に王冠を乗せ、国民に手を振る。そして、その新たな主に国民は必死に手を振り返す。
 新たな女王は、そのかわいらしい姿とは裏腹に恐ろしい噂があった。いや、噂ではない。すでに起こったことを噂とはいわない。そう、事実があった。
 王の試練は一年という時をかけて行われた。王女と宰相の権力争いという単純な構造であるものだが、そこに貴族、領主、騎士といったものが参加をし、あわよくばそのおこぼれに預かろうとしたものが加わっていった。その権力ゲームの果ては誰もが予想しない結末として今、示されている。
 女王は即位式を終え、国民に対しての演説を行っていた。国民は新たな女王の高潔な演説を聞きながら思わずにはいられなかった。女王の周りにいるものたちが代わっていることを。王の試練の間、主要都市の領主はすべて死んだ。死因はすべて突然死とされている。初めのうちは、誰も不思議に思わなかった。高齢なものや疎まれていたものが死ぬことはなんら不思議なことはない。だが、サンミリオンの領主が消えたころから人々は不思議に思いだした。亡霊として長きにわたって存在していたものが消えたのだ。そして、人々は気づいた。一年の間に領主がかなり不自然な形で減っていると。そして、あの宰相でさえ試練の終わる直前に突然死んだ。
 宰相の死によって剣を捧げるものはいなくなった。王の試練は事実上終了を意味した。人々は、フィーリアの行いに口を噤んでいた。人々はそのときまでなぜか信じていた。きっと協会がフィーリアの即位を許さないであろうと。だが、その協会はあっさりとフィーリアの即位を認めた。協会の全会一致を取り付けたフィーリアにその他の小領主たちが反抗することもなく、彼らは剣を捧げた。
 フィーリアの声が途切れる。演説の終了を意味し、再び国民に向かって手を振る。割れんばかりの歓声がこだます。
領主や協会でさえも反抗をしないのにもっと弱い国民たちがフィーリアに逆らうことはない。
「そうね、彼らは誰よりも賢いですからね」
「陛下。なにか言われましたか」
「いいえ。独り言よ」
 フィーリアは執政官のヴィンフリートに微笑んだ。おそらく彼らは誰よりも賢い。そのときの正義を見分けられるできる。そして、彼らは信じてしまったフィーリアが新たなる正義であり、正統なるものだということを。
「ふふ。これから私はいい女王になるわ。これだけ、期待されているものだもの。彼らにはいっぱい甘いお菓子を与えたいわ」
(そう私に従うまでは……)



 それは、女王さまのお菓子。すばらしい琥珀色のお菓子。それは、魅惑のお菓子。誰もが賜りたいお菓子。
 しかし、食べたら最後、もはやこの世には居られません。逃れられぬ甘味なのですから。
 



 貴族も領主も騎士も国民も、すべては女王さまのお気に召すままに。 


あとがき

黒いフィーリアさんは書きやすいです。ゲーム中でも、黒い選択肢を見ると思わず、選んでしまいそうになります。毒殺王は領主によってはしぶとい方もいらっしゃるので大変でした。