理不尽リゴリスト

 
「崩御なされました」
 医師の声が静寂に響く。
 周りの侍女たちの鳴き声が聞こえる。医師は王の手を胸に置かせた。本当に死んでしまったのだ。国王の体調は長くよくなかった。もともと、体が丈夫ではなく、気の優しいところが災いして国政は不安定だった。それに加えて、王子の失踪という事態になり、王の体調はどんどん悪化していった。そして今、王は死んだ。
 エクレールは、従姉妹にして主であるフィーリアに近づいた。フィーリアは、王の手を握り、必死に祈っていた。だが、もはや彼女の祈りが届かないことは証明された。エクレールは、フィーリアを立ち上がらせるとフィーリアを連れて一旦自室に下がらせた。あの場所には、シルヴェストルもいたし、なにより宰相がこれからの国葬を取り仕切るだろう。フィーリアに今、必要なのは立ち直ること、取り乱さないことだ。
 エクレールは、フィーリアの自室につくと、まず椅子に座らせた。呆然となっているフィーリアにお茶を入れた。
「エクレール、私、これからどうなるの」
「姫様、王の庇護はもはやありませんわ。毛皮と宝石で包まれた子供時代は終わり。これからは自分の力で生きていかなければなりませんわ」
 すでに、エクレールはそれを経験していた。エクレールの父は王の弟であったが、早くに亡くなった。母もすでにいないエクレールは、従姉妹に仕えるという道を選んだ。皇族という身分を捨てることは勇気がいるものだった。伯父の国王は面倒をみると言ってくれた。だが、エクレールはその選択を選ばなかった。
「姫様、人はいずれ道を選ばねばなりませんわ。姫様は唯一の王位継承者ですが、私はその道が姫様の唯一の道ではないと思っていますわ」
 フィーリアはエクレールを見つめた。
「私は、いつでも姫様の味方。どこまでもおともいたしますわ。たとえ、どんなことになろうとも最後まで一緒にいますわ」
 エクレールは自らの胸をたたいた。その様子がおかしかったのかフィーリアはくすくすと笑う。
「エクレール、先ほどまで私は不安でいっぱいでした。お父様がなくなって、お兄様もいない。いきなり知らないところにつれてこられたみたいでした。でも、エクレール、あなたはいてくれるのですね」
 フィーリアはエクレールの手を握った。ずっと、いっしょだった。これからも、その手を離さないかぎりは。
「ええ、姫様、私は姫様とこれからもずっといますわ。私はしつこいですからきっと墓場までいっしょですわ」
 フィーリアはまた笑った。
「そうね、エクレールが一緒ならシジェルの門も怖くはないわ。エクレール、私はこれから何をしましょうか」
「その勢いですわ、姫様。いかに理不尽なことがこれからおきようと私たちは負けませんわ。運命さえも私たちの前では跪くのです」
 そう、もう始まっているのだ。フィーリアの戦いは。
 



 「さあ、姫様、どんなことがあろうとも私が屈服させてご覧に入れましょう」

あとがき

 エクレールをメインに書いてみました。パワフルでしかも小悪魔な彼女が好きです。きっと、どんなときでもエクレールは前向きであると思います