貴方に送る五つの恋文
・加筆修正しています。
一. 拝啓 誰よりも好きだった貴方へ
正様。
お元気でしょうか。
正様とお別れして弐年の年月が経ちました。
はじめてお会いし、そしてお別れいたしました春がやってきました。
あのときは、私は正様とこのような関係になるとは思いもよりませんでした。
一緒にいられた時間はたった壱年の間。
今では、一緒にいられた時間の方が短いのですね。
しかし、思い出すのは楽しかったことばかりです。
勇様に叱られて、抱きついてしまったこと。
花火大会で迷子になった私を迎えにきてくれたこと。
夏の藪入りに際、私の縁談を見にいらしたこと。
舞踏会で一緒に大勢の前で踊ったこと。
冬の別荘で、将棋をして私が勝ったこともありましたね。
そのあと、一緒に雪合戦をして、雪まみれにもなりました。
すべてが思い出なのですね。
思い出はこれからも消えることはありません。
そして増えることもないのですね。
正様。
このたび、私も縁談が決まりました。
何度も縁談を断った身である私を娶ってくれる方です。
私はこのお優しい方に終生尽くすつもりです。
正様。
このようにお手紙を書くことは最後となります。
最初で最後の手紙です。
正様にはすでに奥様がおられ、このような手紙は迷惑であることも存じています。
でも最後に私の気持ちにけじめを付けたくてお手紙を書きました。
身勝手な私をお許しください。
でも……最後にお別れした日より、今でも、そしてこれからも正様が誰よりも好きでした。
二. 拝啓 優しくて残酷な貴方へ
はる。
今、この手紙を大阪で認めている。
このような手紙を大阪で認めることになろうとは、ついこの間の俺には思いもよらなかったことだろう。
はる。貴様の覚悟を尊重し、俺は大阪に旅立った。
今でもその選択が正しかったのか迷うことがある。
あのとき、大阪行きの列車に乗らず、貴様の縁談会場に行ったのなら、このような手紙を書かずにいられたのだろうか。
今も貴様は俺の腕の中にいるのであろうかと。
俺は、大阪で弐個連隊の隊長に任命された。
そして、おそらく次は少将に昇進する。
そして、大阪から戻ってきたときは正式に宮ノ杜の当主になっているだろう。
すべては望んだとおりになった。
貴様を妻にするということ以外は。
はる。
大阪より戻りし後、貴様と会うときは貴様の結婚式になるだろう。
そのとき俺は、貴様とどのような顔をして会えばよい。
俺は嘘をつくことはできん男だ。
きっと、貴様を祝福することはできないだろう。
はる。最も優しく、そして残酷な人よ。
俺にすべてを与え、そして唯一を与えなかった者よ。
俺は、きっと貴様を忘れることはできないだろう。
あのとき誓ったように、終生、お前を愛し続けるだろう。
三. 拝啓 愛の言葉を無くした貴方へ
茂様へ
拝啓、お元気ですか?
こちらは雪がかなり積もっています。
お屋敷のあった帝都では見れない雪景色です。
茂様とで会う前、私にはこの雪景色が毎日退屈でしょうがなかったです。
しかし今となっては、この雪景色が私をなぜか慰めてくれます。
茂様、この度お手紙を書きましたのは、私の縁談が決まりました。
相手は町の豪商の方です。
宮ノ杜にお仕えしていたことを聞いて、是非とも嫁にほしいとおっしゃってくれました。
父も母も喜んでいます。
良い人が見つかったと。
みんな喜んでいます。
茂様も喜んでくれますか?
おはるちゃん、よかったねと。
私は今でも茂様をお慕いしています。
その言葉に嘘も偽りもありません。
そして私が誰のものになろうともそれは変わることのないでしょう。
たえちゃんから聞きました。
茂様の様子を。
茂様は廃人のようになられ、お食事もお召し上がりにならないと。
このままでは死んでしまいますと。
この手紙はお別れの手紙です。
本当はもう一度御目にかかりたかったけれども、それも叶いません。
もうお手紙することもありません。
茂様、私はあなたの妻になりたかった。
この指輪を左手にして、あなたのそばにいたかった。
でも現実は何一つ思い通りにならないですね。
貧乏な私も、裕福な茂様も思い通りに生きられないところをみると、
結局のところ人はどのような立場で生まれても何も変わらないということでしょうか。
茂様、最後に生きてください。
今生、最後の望みです。
どうか私が愛した茂様。
お元気で、左様なら。
四. 拝啓 約束破りな貴方へ
はるさんへ
きっとこの手紙を書いているとき、自分はどんな顔をしているのでしょうか?
いつもの優しい自分、三治を撃ったときの冷酷な自分、それとも君の縁談を潰しにいったときの焦った自分。
どれも違うような気がするし、どれも当てはまるような気がします。
きっと空虚というのがぴったりと合う気がします。
貴方が去ってから何一つ変わりません。
屋敷の庭は相変わらず花が咲き乱れ、兄弟の当主争奪戦も続いています。
仕事も交通事故が増えましたが、別段そのくらいの変化です。
でも、最近よく言われるのが、自分は変わったと言われます。
どこがどうというのはないそうなのですが、変わったと口をそろえて言います。
三治を撃った後とは違い、なぜでしょうか……、自分でもよくわかりません。
はるさん。
どうして貴方はここにいないのでしょうか?
貴方は母に自分を支えたい、力になりたいといったそうですが、どうして貴方はここに俺の前にいない。
流行りの小説のように約束を違えるのか?
好きだと言ってくれた言葉は嘘なのか?
貴方に縁談が来ていることをたえさんから聞きました。
俺を置いて仕合せになろうとしている貴方へ。
俺を変えてしまった貴方へ。できることならもう一度、君に会いたかった。
五. 拝啓 違う空を見ている貴方へ
はる吉へ
拝啓、お元気ですか?
俺は毎日元気です。大学の講義とか実験とか毎日、何かに追われています。
そちらの様子はどうですか?正達は元気にやってるかな?
はると離れて、壱年。
今でも、別れたあの日のことを思い出します。
お互いに納得して別れたけど、たまに後悔することがあります。
一緒にいることばかりを願った壱年前。
あの時の自分を幼いと感じる半面、その情熱を羨ましくも感じるときがあります。
はる。
知っていますか?イギリスの空はいつも曇っています。
日本のような真っ青な青空になる日はありません。
正達の手紙で君が結婚することになったと聞きました。
はるの選択をどうこういう資格は俺にはありません。
君が待つことできないように、俺も君のために帰ることができないのだから。
違う空を見ている君へ、最後の言葉です。
どうか仕合せになってください。
でも忘れないで、違う空を見ているけど、今でも俺は君のことが好きだから。
(六. それでも貴方といられたことが、私にとってなにより仕合せなことでした。 敬具)
雅様へ
あなたの元を突然去ってから、どのくらい経ったのでしょうか。
あのとき旦那様の言いつけで雅様のもとをから去らねばならなかったことをお許しください。
旦那様は雅様が当主になるよう相応しい環境を作るとおっしゃって、私を解雇なさいました。
その所業をひどく憎んだこともありました。
しかし今になると、思うことがあります。
あのまま、雅様のもとに私がいて、それが雅様のためになったのだろうかと。
雅様、ひいては宮ノ杜のことは、帝都から離れたこの場所でも聞き及びます。
その噂を聞くたびに、私はいつも思います。
あのまま屋敷にいて、雅様と仕合せになれたと夢想する未来と身の程を弁えて、雅様とお別れしたこの現実が果たしてどちらが仕合せであるのかと。
お別れしたことが実は仕合せであったのではないかと今はなぜか思うようになったのです。
たぶんそれは、きっと時間のせいなのでしょうね。
会えない時間は辛い気持ちさえも風化してしますのです。
雅様。
このお手紙はけっしてあなたのもとに届くことはありません。
しかしそれでも……、届かないと分かっていても、最後に伝わってほしい願いがあります。
辛いことが多かったですが、それでも貴方といられたことが、私にとってなにより仕合せなことでした。
あとがき
公開終了したので、誤字など修正しました。
でもあんまり変わっていないかもです。
少し、あとがきっぽいことを書きます。
『正について。』
はる→正への手紙です。
これを書いたあと、考えていたことは絶対この手紙正に渡っていないのではないんじゃないかなと思っています。
はるの手紙は正の正妻の手に渡って、正には届かず、かなり後になってこの手紙の存在を知る。
ということになったら、面白いんじゃないなんてまた、当主サマばりにひどいことを考えていました。
まあ需要がないだろうから、書かないけどさ。
『勇編』
これは完璧、勇様の独白文。
一番あり得そうな手紙を目指したつもりです。
出世のために女を捨てるというBADエンドで、一番悲恋ぽいのがたまらん。
勇の性格上、嘘は付けないようですから、未練も結構はっきりといいそうです。
ガンマン出来なくなったら、きっと奪いにいくのではないのかな。
『茂編』
今作だけ続きがありまして、現在の拍手がこれの続きです。
拍手を読んだら分かりますように、BADエンド後、茂がカムバックする場合はどうなるかなと思いました。
きっとある意味吹っ切れて、史上稀にみる御家の発展なんかしそうです。
でも結婚なんかしないで、御家断絶だったらいいなとか。
『進編』
遼が華ヤカを書く上でなぜか一番の鬼門となる彼。
二面性のあるキャラは比較的描きやすいのに、進君はなぜか一番悩む。
一番最後に書いたのですが、彼の場合未練もあるけど、どこか冷めていそうで、ムズかしい。
反対にはるちゃんは描きやすそうです。
うまく伝わらない気持ちとか、進を理解できないとか本編で散々悩んでいましたものね。
『博編』
自然消滅EDと言いましょうか。
お互いに大人になったよねというところです。
博はある意味海外にいるから行動を起こさないけど、これが国内だったらきっと止めに行ったのではないかな。
『雅編』
最後は雅の話ですが、はるちゃんが出せなかった手紙というコンセプトです。
きっと雅ははるちゃんを血眼になって捜しているけど、神様の意地悪でめぐり合えない、
どっかのドラマみたいに、はるちゃんは寒村で素性を隠して生活中という感じです。
兄弟のなかで一番行動力がありそうな人なので、なんとなくはるちゃんの縁談話とかには結びつかなかったです。
御戻りはブラウザバックで。